有島武郎をめぐる物語
出版社: 青弓社
- 大正期に活躍した小説家・有島武郎の代表作『或る女』は、なぜ・どのような経緯で遠いフランスの地で翻訳されたのか。翻訳者の経歴や翻訳に至ったプロセス、有島本人との関係性、バックグラウンドにあった人的なネットワークや共同体の実態を明らかにする。
- 序 章 失われた書籍を求めて
第1部 [フランス語版]有島武郎『或る女(前篇)』フラマリオン(一九二六年)をめぐって――Arishima Takérô, Cette femme-là, Ernest Flammarion, Paris, 1926.
第1章 出版に至る経緯と翻訳作品の構造――翻訳の特殊性と精度についての一考察
1 フランスを中心にした欧米圏での有島文学
2 一九二六年、パリ――『或る女(前篇)』がフランス語訳された経緯
3 フランス語版『或る女(前篇)』と原著テクストとの比較
第2章 有島武郎に潜む政治性と外交性――共同翻訳者・好富正臣とアルベール・メーボンの活動から
1 日本人翻訳者・好富正臣の場合
2 フランス人翻訳者アルベール・メーボンの場合
第3章 フランスにおける有島武郎『或る女』の評価――作品への偏見(ルビ:オリエンタリズム)と作家の生き方への興味
1 一九二〇年代のパリでの日本文学
2 一九二〇年代のフランスにおける有島武郎とその周辺の紹介について
3 出版直後のフランス語版『或る女(前篇)』のパリでの評価
第4章 翻訳行為における〈共同/協働〉の可能性――ベルクソンから有島へではなく、有島からベルクソンへ
1 翻訳テクストに表出するベルクソン〈生〉の哲学の影
2 有島の恩師・新渡戸稲造とベルクソンの友情
第5章 『或る女』に表象されるベルクソン的音楽世界――小説への〈純粋持続(la durée pure)〉概念導入の試み
1 『或る女』内部に鳴り響く「音楽」
2 有島とベルクソン哲学との接点
3 ベルクソン哲学の『或る女』への反映
第6章 有島武郎はどのように西洋を翻訳したか――『或る女』にみる文化翻訳
1 有島武郎による文化翻訳の試み
2 文化翻訳の限界と可能性
第2部 有島武郎が形成した共同体
第7章 有島武郎・草の葉会と鶴見祐輔・火曜会――恩師・新渡戸稲造の人材育成教育の延長として
1 有島武郎・草の葉会(一九一七年〔大正六年〕三月十二日―)
2 鶴見祐輔「火曜会(ウイルソン俱楽部)」(一九一六年〔大正五年〕十二月十六日―)
3 両会の軸としての新渡戸稲造
4 人材養成機関としての両サロンの役割
第8章 有島武郎における文学的精神と社会的良心――作家・芹沢光治良の眼差しから
1 芹沢光治良が草の葉会に参加した経緯
2 芹沢光治良と有島武郎の交流
3 芹沢光治良の人脈から浮かび上がる有島武郎像
第9章 受け継がれた有島武郎の「〈美〉を見る「眼」」――哲学者・谷川徹三の草の葉会参加を起点として
1 谷川徹三が草の葉会に参加した経緯
2 草の葉会が谷川徹三に与えた影響
3 谷川徹三が有島武郎と草の葉会から学んだこと
第10章 有島武郎「クラヽの出家」をめぐる二つの聖地――〈軽井沢〉で〈アッシジ〉を描くということ
1 「クラヽの出家」執筆の地としての〈軽井沢〉
2 〈軽井沢〉に付与された〈聖地〉としてのイメージ
3 〈聖地〉と〈リゾート地〉、二つのイメージの共存
4 「クラヽの出家」に漂う〈軽井沢〉の影
第3部 思想伝達の系譜――父から子へ
第11章 有島武郎テクストと政治との関連性についての一考察――原敬首相暗殺事件の周縁から
1 原敬首相暗殺事件
2 原敬暗殺事件に対する有島武郎の反応
3 有島の原敬暗殺事件への無関心に潜む父・武の影
4 〈和解〉なき親子(父子)関係
第12章 有島武郎における〈学習院〉からの逃避――自由主義教育の受容と実践の見地から
1 「負フ所無シ」とする〈学習院〉での教育
2 有島が理想とする子どもへの教育
3 有島における〈自由主義教育〉の淵源
第13章 反抗する日本知識人の一系譜――父・鶴見祐輔と子・俊輔
1 父・祐輔の〈転向〉と子・俊輔への影響
2 若き日の〈抵抗、反逆する〉父・祐輔
3 〈自由主義者(ルビ:リベラル)〉、鶴見親子におけるその伝達の可能性
終 章 有島武郎をめぐる物語
参考文献一覧
初出一覧
あとがき
索引