「多様な教育機会」から問う
出版社: 明石書店
- 2巻は様々な支援の場に携わってきた実践者が語る「多様な教育機会」のジレンマを受け止めるところから問いを立て、その解を試みた研究論文を収録。本書は、継続的に議論と模索を共有してきた研究者が各々の専門に基づき、経験を考察に反映させた論考から成る。
- はしがき[森直人]
第Ⅰ部 教育機会を問う、その問い方を問う
第1章 多様な教育機会とその平等について考える――ケイパビリティ・アプローチを手がかりに[卯月由佳]
1 多様な教育機会が求められる背景と検討課題
2 教育の目的と教育政策の目標としての教育機会の保障
3 考察の枠組み
(1)ケイパビリティ・アプローチとは何か
(2)どのような場合に実現可能な選択肢(ケイパビリティ)があるとみなせるか
(3)どのような場合に主体的に意思決定する自由があるとみなせるか
(4)教育政策の規範的説明モデルとしてのケイパビリティ・アプローチの特徴
4 考察
(1)教育機会とは何か
(2)なぜ多様な教育機会が求められるのか
(3)個人の意思を尊重するならば、その結果は自己責任か
(4)「最適」な学びを求める多様な教育機会への懸念
(5)多様な教育機会の構想に対する評価
5 結論
第2章 〈教育的〉の公的認定と機会均等のパラドックス――佐々木輝雄の「教育の機会均等」論から「多様な教育機会」を考える[森直人]
1 はじめに
(1)問題の所在
(2)検討の対象
2 「個別学習計画」案と「技能連携制度」案――組織を媒介としない〈教育的〉の公的認定
3 佐々木輝雄による「教育の機会均等」概念の分析――教刷委第13回建議をめぐって
(1)第13回建議と第30回建議への評価の落差
(2)二つの異質な「教育の機会均等」概念とその対立――学校制度内/外、組織志向/教育行為志向
4 「教育の機会均等」のパラドックス――第30回建議で失われたもの
5 「教育の機会均等」のパラドックスの展開にむけて――小括として
第3章 「バスの乗り方」をめぐる一試論――教育社会学の「禁欲」について[仁平典宏]
1 禁欲する教育社会学
2 補助線としての「人間の安全保障」
(1)ケイパビリティ
(2)人間の安全保障
3 日本型生活保障システムと教育社会学
(1)日本型生活保障システムと教育
(2)教育社会学の守備範囲
(3)貶価のプロセス
4 他者としての戦後教育学――教育社会学的アイデンティティの起源
(1)事実学/当為学?
(2)戦後教育学の社会認識と教育社会学①――「欠乏からの自由」との関係で
(3)戦後教育学の社会認識と教育社会学②――「恐怖からの自由」との関係で
5 禁欲を解除する
第4章 不登校や多様な教育機会に関する社会学的研究は議論を開き継続させていけるのか[藤根雅之]
1 序論
2 不登校の実態を明らかにする研究
(1)「グレイゾーン」と「現代型不登校」の発見
(2)「脱落型不登校」と「危険な欠席」の発見
3 不登校を問題と定義する行為を問う研究
(1)「だれが、どういう関心のもとに、どのように、「不登校」を問題にしているのか」(山田 2002:240)
(2)オントロジカル・ゲリマンダリング
(3)不登校の全体像を明らかにしようとする研究の立ち位置
4 それでも不登校の実態を明らかにしようとする研究
(1)社会構築主義研究への批判
(2)社会構築主義研究の流用
5 もう一度不登校を問題と定義する行為を問う
(1)教育社会学のポリティクス
(2)社会学的研究が行う問題の個人化
(3)名付けをめぐる闘いとしての不登校研究
6 結論
第Ⅱ部 不登校への応答・支援を問う
第5章 多様な子どもの「支援」を考える――登校/不登校をめぐる意味論の変容を手がかりに[山田哲也]
1 「多様な子ども」の支援とは何か?――不登校をめぐる意味論への着目
2 不登校支援体制の変遷を探る――支援を主導する鍵概念と再文脈化領域への着目
(1)不登校の子どもの支援に関する公的な会議の概要
(2)〈教育〉装置論への着目――望ましい支援の知を産出する再文脈化領域の検討
3 不登校支援を構想する文脈の変化――欠席をめぐる意味論の複層化
(1)「心の問題」としての不登校――90年代の不登校対策を主導した意味論
(2)「進路問題」としての不登校――2000年代の不登校対策に付与された意味論
(3)「権利保障をめぐる課題」を提起する不登校――2010年代以降の意味論の展開
4 再文脈化領域で参照される知識・実践にみられる変化
(1)「問題」から「諸課題の端緒」へ
(2)登校/欠席の意味論の転換――「再学校化」の含意
(3)再文脈化される知識・実践の変遷――心理・教育・福祉・医療複合体と当事者性の強調
5 不登校支援における包摂と排除の「入れ子構造」
第6章 フリースクールにおける「学習」の位置と価値――行政や学校との連携事例に着目して[武井哲郎]
1 問題の所在
(1)学習の場や形態をめぐる選択肢の拡大
(2)フリースクールと学習
2 対象と方法
3 学習評価をめぐる連携のプロセス
(1)連携のためのプラットフォーム
(2)先例の積み上げ
(3)意味づけの共有
4 総合考察
第7章 不登校児への応答責任は誰にあるのか――1970年代以降の夜間中学における学齢不登校児の受け入れをめぐる論争に着目して[江口怜]
1 はじめに――周縁の学校のジレンマ
2 夜間中学における登校拒否経験生徒の登場――1970年代半ばから80年代初頭
(1)夜間中学の再編と登校拒否・不登校問題
(2)学齢児受け入れ論争――救急中学校論と同和教育論
3 登校拒否経験者の急増から急減へ――1980年代半ばから1990年代半ば
(1)登校拒否・不登校の社会問題化と夜間中学への注目
(2)学校・教師への責任追及と現実的な対応の狭間で
4 おわりに――サンクチュアリーとしての夜間中学
第Ⅲ部 教育と福祉の交叉を問う
第8章 教育と福祉の踊り場――「居場所」活動の可能性についての考察[金子良事]
1 はじめに
2 教育福祉研究と居場所研究の距離
3 教育福祉における具体的なサービスの諸相と思想的基盤
4 教育と福祉の踊り場としての「居場所」
(1)居場所活動における教育および福祉
(2)教育と福祉の基盤にあるもの
(3)予備的考察――信頼を作るAttitudeとラポール形成
(4)居場所活動におけるコミュニケーションの難しさと重要性
5 居場所の構造
6 おわりに――無用の用
第9章 教育制度と公的扶助制度の重なり――就学援助と生活保護を対象として[小長井晶子]
1 はじめに
2 戦前における就学奨励の費目――生活費と就学費
3 生活保護における教育を受ける権利の保障
4 普遍主義的教科書給与の廃止と就学奨励制度の成立
5 法律制定後の市町村の就学奨励――準要保護者の認定方法と支給費目
6 おわりに
第10章 子ども支援行政の不振と再生――トラスト設置手法を導入したイングランドのドンカスター[広瀬裕子]
1 はじめに
2 ドンカスターの背景問題
3 エドリントン事件のインパクトとカーライル報告書
4 負のスパイラルを断ち切る提案をしたル・グラン報告書
5 トラストの運営方法とチェックの仕組み
6 子ども支援行政における有事のガバナンス改革
第Ⅳ部 学校・教師を問う
第11章 教員はどのように居場所カフェを批判したのか[知念渉]
1 居場所カフェに違和感をもつ教師たち
2 現場の論理を記述・分析する方法
3 調査対象校のおかれた文脈
4 居場所カフェを批判する論理――〈指導〉と〈責任〉
(1)批判を可能にする二つの論理
(2)〈指導〉という論理
(3)〈責任〉という論理
5 なぜ、どのようにCCと連携したのか
(1)CCの専門性とは何か――〈指導〉をめぐる問題
(2)「クラスに返す」とは何か――〈責任〉をめぐる問題
6 まとめ――教員がその他の専門職と連携していくためには
第12章 教員の「指導の文化」と「責任主体としての生徒」観[井上慧真]
1 はじめに
(1)『生徒指導提要』の改訂――不登校児童・生徒の指導/支援にかかわる記述を中心に
(2)不登校児童生徒への指導/支援――教員の責任の多様さ、大きさ
(3)本章の議論――かつての喫煙への指導から教員の責任をみる
(4)教員の責任を「拡張する論理」と「解除する論理」
2 高校生への喫煙のひろがりと処分中心の対応の限界――「賽の河原の石積み」?
3 喫煙生徒への対応――「学校の外におく」懲戒処分から「指導過程の問い直し」へ
(1)喫煙問題への対応――都内高校への調査から
(2)懲戒処分から「指導過程の問い直し」へ
4 喫煙と教員の責任を「解除する論理」――ある私立高校の喫煙による退学処分から
(1)事件の概要
(2)判決の内容
5 喫煙と教員の責任を「拡張する論理」
(1)「家庭謹慎」と「登校謹慎」
(2)「登校謹慎」の事例
(3)処分規定自体の問い直し
(4)生徒の「内面からの変容」を支える
6 考察――「責任主体としての生徒」観という視点
第13章 後期近代における社会的に公正な教育の実践的論理――批判的教育学からの示唆[澤田稔]
1 はじめに――本章の目的と方法
2 批判的教育学における実践的論理をめぐる論争関係
3 フレイザーの政治哲学から導出可能な社会的に公正な教育の実践的論理
(1)「非改革主義的改革」という中間的アプローチ
(2)批判的教育学における再分配の政治及び承認の政治の新たな方向性
(3)批判的教育学における代表の政治の再配置
4 まとめ――社会的に公正な教育におけるジレンマ
あとがき[金子良事]
索引