「多様な教育機会」をつむぐ
出版社: 明石書店
- 1巻は「ジレンマ」と「緩さ」を公教育再編と子どもの福祉に不可欠なポジティブな要素と捉える。なかでも、Ⅱ部の実践者による「多様な教育機会」の省察が本書の中心であり、Ⅰ部はそれらの共通性を探り、Ⅲ部はRED研と教育機会確保法について振り返る構成をとる。
- はしがき[森直人]
序章 バスに乗る――反復される対立構図を乗り越えるために[森直人]
1 多様な教育機会を考える会とは
2 「多様な教育機会」という主題の由来
(1)法案の意義、法案への危惧
(2)法案の問題提起の継承へ
3 反復される対立構図――「教育の自由化」論を境とする変容
(1)福祉国家と公教育
(2)藤田-黒崎論争
(3)「ゆとり教育=学力低下/格差拡大」批判の言説以後
4 「バスに乗る」――反復される対立構図を乗り越えるために
第Ⅰ部 「多様な教育機会」を考える――ジレンマの見方
第1章 「多様な教育機会」と教育/福祉――ジレンマのなかで、ジレンマと向き合う実践の論理[森直人]
1 はじめに――「多様な教育機会」概念の拡張と教育/福祉という視点
2 教育/福祉の歴史的展開
3 実践としての教育/福祉
(1)3つの留意点――「実践」と「区別」
(2)教育/福祉における同一性と差異性
(3)教育/福祉がもたらすジレンマ
4 ジレンマのなかで、ジレンマと向き合う実践の論理
第2章 「無為の論理」再考[金子良事]
1 はじめに
2 「一息つく」――「無為の論理」の一つの形
(1)「一息つく」の普遍性
(2)成果とは切り離される
3 「一息つく」がなぜ重要なのか?
(1)「一息つく」と相談支援や学習
(2)「無為の論理」と対立する「外在的ルール」
(3)存在を肯定するとは何か――福祉と教育の相克するとき
4 おわりに
第3章 教育における緩さとジレンマの意味論――「社会的に公正な教育」の構想とその実践的課題=可能性[澤田稔]
1 はじめに――研究のスタンス/思考のスタイル
(1)中途半端さの選択
(2)より望ましい公教育像の描き方――理論モデルと実践事例とのあいだのモヤモヤ
(3)本章の構成
2 社会的に公正な教育の基本理念――コンピテンシー・インクルージョン・デモクラシー
(1)コンピテンシー・ベースの教育
(2)公教育におけるインクルージョンとデモクラシー
(3)再分配・承認・代表の政治と「社会的に公正な教育」の構想
(4)公教育に求められる「緩さ」とその意味
(5)「社会的に公正な教育」のジレンマとその解決・展開方法
3 事例の考察――「緩さ」の作法と「交差是正」の教育実践
(1)「精神の習慣」を軸とするコンピテンシー・ベースの教育における「交差是正」
(2)「ピース・コーナー」の設置というインクルーシブな教育の企図における「交差是正」
(3)「クラス憲法」の取り決めと運用における「交差是正」
4 まとめ――ジレンマの解消ではなく反省的展開へ
(1)「社会的に公正な教育」の基底的要因としてのインクルージョン、または「承認の政治」
(2)再び「社会的に公正な教育」が直面するジレンマについて
第Ⅱ部 「多様な教育機会」をつくる――ジレンマのなかの実践
第4章 インクルーシブな高等学校づくりにおける実践の端緒――アイデア会議、オンザフライミーティングなどにおける水平型コミュニケーションの可能性について[中田正敏]
1 はじめに
(1)学校づくりの枠組みと組織的な課題
(2)赴任当初に感じた「ちぐはぐさ」
2 さまざまな局面におけるコミュニケーション
(1)解釈層――既存のスクリプト
(2)矛盾層――相矛盾するスクリプト
(3)矛盾層から解釈層への退却――旧スクリプトの復活
(4)矛盾層からエージェンシー層へ
3 アイデア会議の実施と学校組織のコミュニケーションの変化
(1)アイデア会議という構想
(2)「基本デザイン」の提示
(3)アイデア会議の企画
(4)アイデア会議の実施
(5)「アイデア会議」の結果のフィードバック
(6)「アイデア会議」とは何か
4 「廊下での対話」とオンザフライミーティング
(1)廊下での対話
(2)オンザフライミーティング
(3)オンザフライミーティングとフォーマルな会議
5 まとめと若干の考察
第5章 地方の高校生と都市部の大学生をつなぐ場と機会の創出――バーチャル空間を活用した公設型学習塾の実践の現在地[高嶋真之]
1 本章の対象と筆者の立場
2 鹿追町オンライン公設塾の設置と構想の過程
(1)鹿追町と鹿追高校の概要
(2)公設塾の設置の背景とオンラインの選択
(3)オンライン公設塾のイメージの具体化
(4)オンライン公設塾のコンセプトの具体化
3 鹿追町オンライン公設塾の実践とさまざまな意図
(1)鹿追町オンライン公設塾の多様な実践
(2)利用している生徒の普段の様子
(3)生徒や関係機関とのコミュニケーション
(4)学校と公設塾の個別性と協働性
(5)「塾」という言葉を使うこと/使わないこと
4 地方におけるオンラインによる「多様な教育機会」に関する考察
(1)鹿追町オンライン公設塾の課題と可能性
(2)バーチャル空間を活用した実践の展望
第6章 「居られる」と「学びに向き合う」の狭間で――学習支援・不登校支援・夜間中学の実践から[内藤沙織]
1 「居場所」と「学習」のジレンマ
2 学びの場に「居られない」子どもたちの存在――学習支援
3 居場所で「学びに向き合う」とは――不登校支援
4 「居られる」場としての学校――夜間中学
5 「居られる」から「学びに向き合う」へ
第7章 中学校にサードプレイスを――中学校内居場所の実践[谷村綾子・阪上由香]
1 中学校内居場所を始めたわけ
(1)高校内居場所カフェから中学校内居場所へ
(2)セカンドプレイスにサードプレイスを
2 つながり、重なり、ケアする居場所の日々
(1)「日本語指導が必要な子どもの教育センター校」でつながる……エピソード①
(2)別室登校の生徒とつながる(不登校と教師へのトラウマ)……エピソード②
(3)地域でつながる(不登校、いじめ、ケアの欠落)……エピソード③
(4)特別支援学級とつながる……エピソード④
3 おわりに――教育と福祉の枠を超えてケアの関係性のなかへ
第8章 不登校支援の考え方――子どもを中心に考える[前北海]
1 学校に行かない子どもを支える
2 フリースクールを伝える――質問と回答
第Ⅲ部 「多様な教育機会」をふり返る――ジレンマの軌跡
第9章 教育機会確保法理解のためのガイド[高山龍太郎]
1 はじめに
2 教育機会確保法の不登校施策
(1)不登校児童生徒の定義
(2)不登校施策を行う際の基本的な考え方
(3)教育の機会の確保
(4)子ども個人への支援
3 教育機会確保法成立の経緯をふり返る
(1)多様な教育機会確保法案
(2)フリースクールの誕生
(3)不登校の学校要因への認識
(4)フリースクール関係者による法律づくり
4 教育機会確保法をめぐる論点
(1)普通教育の自由選択
(2)民間施設への経済的支援
(3)適切な普通教育
5 おわりに
第10章 「多様な教育機会を考える会」の歩みをふり返る――座談会:阪南大学あべのハルカスキャンパス[森直人・金子良事・澤田稔/聞き手 江口怜]
RED研がはじまったきっかけ
事務局3人の出会いと広田理論科研との関係
RED研のスタート
初期研究会の楽しみ
「立ち上げの経緯」
もう一つのRED研、文字を通じての交流
転換点――外国ルーツの子ども問題の回
研究会のテーマ設定の仕方
メンバーの増加と研究会の転換――事務局の拡大と「本会の趣旨」の作成
研究会で大事にしてきた「モヤモヤ」
事務局それぞれの研究会運営の力点とスタイル――実践とアカデミックのあいだ
これまでの活動の紹介
あとがき――ジレンマの積極的受容としての「緩さ」再考[澤田稔]
索引