秋田 環日本海文明への扉
出版社: 亜紀書房
- 【推薦】中沢新一さん
「列島の北の果て、日本の奥の奥へとつながっている秋田は、一つの独自の宇宙をつくりなしてきた。そこを原郷とする写真論の思想家は、愛情をこめて、土地の細かな襞々を克明にたどり、忘れられかけた歴史の記憶を呼び覚ましながら、広大にして深々とした、魂の秋田ジオラマを描き出した。」
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古来、蝦夷と大和朝廷の境界に位置した秋田は、松尾芭蕉が『奥の細道』で辿り着いた北の到達点にして、日本海特有の哀愁を漂わせる、歌枕の聖地であった。
北限の秋田。先は魑魅魍魎が跋扈する未開の地……
しかし、「文明」の行き止まりとされたその地こそ、日本海以北の海を挟んで、大陸や島々の人々が行き交う北方民族たちの文化ネットワークへの玄関口であった。
異国から来訪する「マレビト」が起動する文化変容。
厳寒の雪国で洗練されていく精神と美意識。
従来の枠を超えて美術/写真史を論じてきた美術史家が、故郷・秋田を歩きながら、その風土の深層へと分け入り、日本文化の底流にある異形の風景を鮮やかに現前させる。
日本のもうひとつのルーツを解き明かす「裏日本史」。 - 第1章 旅する光陰 ──その奥の奥の細道──
1.北限の岬
2.循環する聖水
3.松尾芭蕉と海に漂う島々
4.集積する詩学
5.旅に死すこと
6.旅人の秋田
7.蝦夷島の影 蝦夷島の影
8.アイヌとの交流
9.旅を揺り動かす
10.フィールドワークの先駆者
第2章 北海の彼方へ ──流刑地民族学の視点から──
1.日本海という孵化場
2.秋田の登場
3.渤海と粛慎
4.樺太への道
5.流刑地を延長する
6.流刑地民族学へ
7.鳥居龍蔵と源泉としての北方
8.北緯40度ノート
9.心は淋しき旅人
第3章 雪国の民俗 ──伝承の意味──
1.蘇る写真
2.ナマハゲと梵天
3.民俗学写真の精髄
4.風と土を彫る
5.秋田パノラマを開く
6.雪国の衝動
7.日本の奇跡
8.トンネルの向こう側
第4章 縄文の粒子 ──四次元の秋田──
1.岡本太郎の秋田
2.馬と牛、縄文と弥生
3.雪の結晶と遮光土器
4.ドキュマンを探して
5.マルセル・モースの弟子たち
6.縄文とアイヌ
7.人種の波動
8.蓑虫山人と縄文仮面
9.ストーンサークルの秘密
10.縄文のネットワーク
11.四次元の秋田
第5章 宇宙から降るデザイン ──雪の家から秋田工芸まで──
1.白井晟一の温泉建築
2.郷土建築とモダニズム
3.風土をかたちに
4.白井晟一と縄文的なもの
5.今和次郎と雪との戦い
6.ペリアンのデザイン改革
7.秋田から沖縄へ
8.木地師たちの光跡
9.原型の夢
10.宇宙へ降り積もってゆく
第6章 秋田原郷 ──その風土と世界性──
1.故郷と幼年時代の思い出
2.日本海の文物交流
3.黒水靺鞨からナナイへ
4.ツングース系諸族のゆくえ
5.謎のオホーツク文化
6.菅江真澄とブルーノ・タウト
7.冬を美的に解決する
8.カントの風土
9.人間学と自然地理学
10.「世界=故郷」を愛するということ
第7章 秋田街道を超えて ──雪の果ての銀河──
1.宮沢賢治が歩いた秋田街道
2.銀河と月光
3.セールスマンの哀しみ
4.秋田蘭画への道
5.漂泊の絵画
6.角館の悲劇
7.雪の涯の風葬
8.組石からマタギへ
9.旅マタギと漂流民
第8章 白い神々の憑依 ──オシラサマとシャーマニズム──
1.「秋田風俗問状答」とネフスキー
2.巫女のオシラ遊び
3.イタコの口寄せ
4.馬産と養蚕
5.「遠野物語」から「捜神記」へ
6.アイヌ文化との関わり
7.オヒナサマを透視する
8.白山信仰の源流
9.ツングース民族大移動
10.稲と白山信仰
11.渡り神としてのオシラ様
12.シャーマニズムの本源
第9章 春くる鬼 ──異人たちの饗宴──
1.折口信夫と蝟集する霊
2.マレビトの変容
3.鬼神と鬼門
4.漂流する仮面
5.島から半島へ
6.兄弟の半島
7.日本海の龍神
8.ホカヒビトとマレビト
9.流浪する神
第10章 風の身体 ──土と光の記譜法──
1.天空の不夜城
2.蝦夷から武士へ
3.踊る秋田
4.闇から放たれた流星
5.風土と神話
6.亡者の舞踏
7.黄金の穂波
8.秋田の呪術師
9.身体風土の記譜法