塚本邦雄の百首

塚本邦雄の百首

出版社: ふらんす堂
著者: 林 和清
  • ◆百首シリーズに塚本邦雄が登場!
    馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ
    (『感幻樂』)
    塚本邦雄生涯の代表作である。この歌の前に三行詩「水にふる雪/火のうへに散る百日紅/わがために死ぬは眉濃き乳兄弟」が置かれている。「おおはるかなる」が狂言小唄からそのまま初句を用いながら、景は近代的であったのに対して、この歌には直接の典拠がないにもかかわらず、世界は極めて中世的である。
    夏の季語「馬洗う」の通り、鮮烈な水を逬らせ丹念に馬を洗う男。そこには『葉隠』を思わせる武士道精神がよぎる。かつて三島由紀夫が「馬の薄い皮膚の精緻なスケッチ」と評したように、馬の存在感が際立つ。
    ◆塚本の血のあと
    私は思う。大正期、近江に生まれた少年が、身辺にはない文学、音楽、美術、映画あらゆる芸術への身もだえるような憧憬に心焦がれていた日を。その全てを戦争の黒い泥靴が踏みつぶし、自らの存在を全否定された地獄の日々を。そして戦後、生き直そうと文学に
    命の火を燃やし続けた情熱の歳月を……。
    塚本邦雄はやはり真の文学者であったと思う。その人とめぐり逢い師事できたことは、私の人生において無上の幸福であった、とあらためて感謝する次第である。
    (解説より)

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