即時強制と現代行政法理論
出版社: 信山社出版
- 明治憲法下にドイツからもたらされ、その後アメリカ法の影響を受け変質した即時強制を、わが国の立法史・学説史の視点から考究。
- 明治憲法下にドイツからもたらされ、その後アメリカ法の影響を受け変質した即時強制を、わが国の立法史・学説史の視点から考究。
- ◆「即時強制」の本質を、わが国の立法史・学説史の視点から考究―行政法各論/警察行政法の成否を問う◆
即時強制の隘路からどう抜け出せるか?「強制」の仕組みを解明し、行政法各論/ 警察行政法の成否を問う。明治憲法下にドイツからもたらされ、その後アメリカ法の影響を受け変質した即時強制を、わが国の立法史・学説史の視点から考究。 - 『即時強制と現代行政法理論』(学術選書)
須藤陽子(立命館大学法学部教授) 著
【目 次】
・はしがき
◆序章 本書の視角―現代行政法理論における欠缺―
Ⅰ 本書の目的と研究手法
1 COVID-19と即時強制
2 本書の目的
3 研究手法
Ⅱ 理論的欠缺が生じた原因考究の必要性
1 占領期と新しい行政法
2 立法はアメリカ法,学問はドイツ法の影響
Ⅲ 法改正のない理由―「公共の安全と秩序」―
1 法改正のない強制措置の根拠法
2 警察官職務執行法改正法案
Ⅳ 行政法各論警察行政法の構築を目指して
1 伝統的警察法理論の否定「もはや警察法ではない」
2 制定法上の警察を対象とした警察法理論の必要性
◇第一部 即時強制の成り立ち◇
◆第1章 即時強制概念の成り立ち
Ⅰ 問題の視角
1 ドイツ法学説の影響と日本法学説の独自性
2 警察強制,警察上の強制執行,警察上の即時強制
Ⅱ 明治期:警察権力統制の必要性と行政執行法制定
Ⅲ 大正期:概念の受容と日本法制の特色
1 大正初期:『日本行政法 第三巻』
2 オットー・マイヤーとフライナーの学説の影響
(1)ドイツ法学説をそのまま受け容れられない理由
(2)強制を統制する考え方
3 大正中期:新稿『日本行政法各論 上巻』 「義務ノ不履行」という境界線
4 小括 「義務ノ不履行ヲ前提トシナイ」の意義
Ⅳ 昭和前期:『日本行政法 下巻』即時強制と時間の要素
1 財政法理論の構築 警察強制から財政強制へ
2 即時強制と時間的要素
Ⅴ 行政法総論と即時強制
1 警察権の分散と行政法総論の変化
2 行政法総論と警察法の関係
おわりに
◆第2章 財政強制と強制徴収
Ⅰ 問題の視角
1 「財政強制」「財政上の強制執行」「財政上の即時強制」「財政罰」
2 かつての行政法各論における「強制」の理論
3 「財政強制」と行政法総論の関係
Ⅱ 「財政強制」は上位概念か?
1 警察法理論と「財政強制」の関係
2 「財政強制」と即時強制
(1)『行政法撮要 全』 「財政上の強制執行」≒直接強制
(2)『日本行政法 下巻』 消えた「財政上の即時強制」
3 美濃部説と異なる田中二郎「財政強制」
Ⅲ 「財政上の強制執行」の意義
1 財政法上の非金銭的義務と行政執行法,行政代執行法との関係
2 金銭給付義務と「財政上の強制執行」
(1)国税徴収法による滞納処分手続の意義
(2)「財政上の強制執行」と行政法総論 行政上の強制徴収との関係
(3)田中二郎学説の欠点
Ⅳ 行政上の強制徴収の問題点
1 国と地方公共団体の違い
2 強制徴収の対象範囲
おわりに
◆第3章 即時強制と即時執行
Ⅰ 問題の視角
Ⅱ 即時強制の定義を問う
1 田中二郎の定義に対する疑問=塩野説に対する疑問
(1)塩野説に対する疑問①=「その性質上義務を命ずることによってはその目的を達し難い場合」とは?
(2)塩野説に対する疑問②=「目前急迫性」と「義務を介在させない」
2 即時強制の「要件」
(1)佐佐木惣一 大正11年『日本行政法論各論 通則 警察行政法』
(2)美濃部達吉 大正13年『行政法撮要 全』
(3)美濃部達吉 昭和15年『日本行政法 下巻』
3 小括 「事ノ性質上下命ニ依リ其ノ目的ヲ達スル能ワザル場合」
(1)目前急迫の必要に基づく執行
(2)所有者不明の観点
(3)「危険の虞あるもの」を対象とする検査
Ⅲ 即時強制から「行政調査」を区別する意義
1 税法上の検査と警察法に由来する検査の相違
2 税法上の検査は警察強制に由来するのか?
(1)警察法理論との異同
(2)「財政強制」の変質?
(3)由来,性質の異なるものの混淆?
3 即時強制と行政調査の区別
(1)解釈論の必要
(2)区別の指標
4 罰則を付する意味
(1)「行政強制」と行政罰
(2)強制を受忍する義務と罰則
(a)即時強制と公務執行妨害罪
(b)刑罰と過料
おわりに
◆第4章 代執行と即時強制
はじめに
Ⅰ 即時強制と「即時執行」が混在する意味
Ⅱ 塩野説に対する疑問
1 「その性質上義務を命ずることによってはその目的を達し難い場合」
(1)立入調査の性質
(2)所有者不明
2 「目前急迫性」と「義務を介在させない」
Ⅲ 代執行の意義
1 行政執行法5条と戦後の行政執行制度
2 代執行と直接強制
(1)現代の学説
(2)代執行と直接強制の異同
(3)代執行をとることができない代替的作為義務
Ⅳ 「簡易代執行」「略式代執行」は代執行か,即時強制か
1 いわゆる「簡易代執行」「略式代執行」とは?―「簡易」「略式」の意味を問う―
(1)行政代執行法の適用外
(2)簡易代執行・略式代執行に共通する「要件」
2 即時強制の観点から
(1)代執行と即時強制の混淆―屋外広告物法7条―
(2)代執行と即時強制の区別
(a)「義務を課していない」
(b)緊急性の高低
(c)代替的作為義務
おわりに
◆第5章 警察機関と代執行,即時強制,強制徴収―物に対する有形力の行使―
Ⅰ 警察機関と行政上の強制執行,即時強制
1 行政代執行法は警察上の強制執行の一般法か?
2 即時強制による直接強制の補完
3 検証の目的
Ⅱ 「氏名及び住所」不明の措置
1 代執行か,即時強制か?
(1)「氏名及び住所」不明
(2)「簡易代執行・略式代執行」との異同
2 行政代執行法の準用
(1)代執行の要素と特質
(2)行政上の強制執行と即時強制を区別する観点
(3)「氏名及び住所」不明の措置と強制徴収
Ⅲ 強制措置と費用徴収規定
1 行政上の強制徴収と国税徴収法
2 「国税滞納処分の例」間接準用型と直接準用型の比較検討
(1)間接準用型①建築基準法(昭和25年法律201号)9条12項
「行政代執行法(昭和23年法律第43号)の定めるところに従い」
(2)間接準用型②道路交通法(昭和35年法律第105号)81条
(3)直接準用型昭和60年改正道路交通法(昭和60年法律第87号)
おわりに
◆第6章 建築行政と行政上の強制徴収
Ⅰ 占領期立法の特色
Ⅱ 行政代執行法の機能不全と建築基準法改正
1 建築基準法9条11項 措置の名宛人不明
2 建築基準法9条12項 行政代執行法2条の要件緩和規定
Ⅲ 「空家等対策の推進に関する特別措置法」と強制徴収
1 建築基準法の影響
2 令和5年空き家法改正と即時強制
3 令和5年空き家法改正と2通りの強制徴収
おわりに
◇第二部 即時強制と行政上の強制執行の関係―適用原則―◇
◆第7章 再考 行政上の強制措置
Ⅰ 問題の視角
1 再考の契機
2 占領期以降の「強制」の理論と田中二郎
(1)現代における「強制」の理論の空疎化
(2)田中二郎学説の特色
Ⅱ 行政実務における有形力の行使の必要性
1 行政執行法5条代執行,執行罰,直接強制の踏襲
2 執行力の喪失
(1)戦前:警察力による「強制」
(2)「執行」の根拠と担い手
3 「強制」と罰則の関係
(1)刑罰の機能不全
(2)科罰手続
Ⅲ なぜ直接強制は抑制的でなければならないか
1 直接強制とは?
2 直接強制を抑制する田中二郎説の意図
(1)田中二郎の「直接強制」
(2)有形力の行使の必要性と公正さの確保
おわりに 非代替的作為義務と不作為義務の履行確保手段
◆第8章 義務と強制の理論―「行政強制」から「行政上の義務履行確保」,「行政の実効性確保」へ―
はじめに
Ⅰ 警察権の分散と行政法総論の変化
1 占領期の行政法総論教科書
(1)戦前の「行政強制」と即時強制
(2)新しい行政法教科書
2 一般行政組織が行う強制措置―これを何というか?―
Ⅱ 警察上の即時強制から行政上の即時強制へ
1 行政法各論警察法と行政法総論の関係変化―主客逆転―
2 行政法総論における即時強制
3 1960年代の行政法学界
Ⅲ 「行政強制」論の特色
1 「義務」と「強制」の捉え方
2 行政上の強制執行と即時強制を区別する標準
Ⅳ 「行政上の義務履行確保」と「行政上の実効性確保」
1 塩野宏:行政上の一般的制度としての即時執行
2 藤田宙靖:三段階構造モデルの例外としての即時強制
3 手法論としての「行政上の実効性確保」
おわりに
◇第三部 即時強制と警察法理論◇
◆第9章 即時強制と「執行機関」概念の変質
はじめに
Ⅰ 即時強制の権限の所在
1 警察組織と権限の法定化
2 権限法に見られる大きな変化
3 戦前の行政官庁と警察官との関係
(1)作用法の3分類と強制措置の性質
(2)警察官への委任
Ⅱ 権限法の変化と「執行機関」概念
1 占領期の「執行機関」概念
2 占領期以降の「執行機関」概念
3 即時強制の変質と「執行機関」概念への反映
Ⅲ 現代の「執行機関」概念をどう論じるか
1 「実力の行使」があれば「執行機関」に該当するか?
(1)問題の所在 一般行政職員による有形力の行使をどう捉えるか
(2)補助機関か,執行機関か
2 有形力の行使,法律による規定の仕方,「執行機関」概念
(1)法律の表現,罰則規定の存在
(2)検疫法 「執行機関」かつ「行政官庁」という検疫所長
(3)漁業法 即時強制と行政調査の区別の指標,「執行機関」概念
3 現代の「執行機関」概念
おわりに
◆第10章 日独警察法理論の相違
はじめに
Ⅰ 問題の視角
1 危険防止法の3つの基本要素
2 「もはや警察法ではない」
3 「警察権の限界論」に対する批判
Ⅱ 一般概括条項の不存在―日独警察法理論の相違その1―
Ⅲ 「危険」概念欠落の意味―日独警察法理論の相違その2―
1 権限発動の要件と権限発動の正当化
(1)「危険」概念の意義
(2)権限規範と「危険」概念
(3)警察責任と「危険」概念
2 「防禦のための理論」と「介入のための理論」
Ⅳ 「公共の安全と秩序」論の欠如―日独警察法理論の相違その3―
1 「警察」概念をめぐる「隔たり」
2 「公共の安全と秩序」とは?
3 保安警察と行政警察(狭義)
おわりに
◆第11章 警察行政法と即時強制―行政法各論警察行政法の構築を目指して―
はじめに
Ⅰ 「警察行政法」論の意義
1 行政法各論としての警察行政法論の成否―1999年の問題提起―
2 「警察行政法」論と行政法総論の関係
Ⅱ 「制定法上の警察」の特色
1 警察活動と法律―組織法と権限法―
2 即時強制をめぐる理論の欠缺
(1)行政手続法適用除外
(2)警察官職務執行法と比例原則による司法審査
(3)本来の即時強制
(4)議論の停滞
Ⅲ 現代行政における「執行力」「強制力」の欠如と警察による補完
1 警察権の分散と「執行力」「強制力」の喪失
2 警察力による補完をどう位置付けるか?
おわりに
◆終章に代えて
1 立法者に求められること
2 新しい問い
・事項索引