
安重根の平和思想と人文学的想像力
出版社: 明石書店
- 伊藤博文殺害の罪によって刑死するまでのあいだに残された安重根の遺文・遺墨はなにを物語るのか。今日なお色あせない韓日中三国の連携による東洋平和の思想や東洋から西洋にまたがる幅広いパースペクティブをもつ世界観が語る哲学の射程を多角的に分析する。
- 編者のことば[李洙任・趙晟桓]
第1章 文明激変の時代、安重根の東アジア平和探求と文明史的含意[金正鉉]
1 はじめに
2 東アジアにおける安重根に対する同時代的評価
3 日本の近代化と帝国主義の形成
4 ニーチェと幸徳秋水の批判の共鳴
5 安重根の帝国主義批判と道徳的精神文明としての平和思想
6 むすび――安重根思想が現代に与える意味と課題
第2章 安重根義士の韓中日経済協力構想の意義と示唆点――北東アジア平和共生のための経済協力方案[趙廷元]
1 序論
2 安重根の韓中日経済協力構想
3 韓中日経済協力の現状と協力深化の障害要因
4 結論と提言
第3章 安重根の遺墨からみる儒教思想と平和精神[金賢珠]
1 はじめに
2 安重根の遺墨の儒家思想
3 安重根の遺墨の平和精神
4 結論
第4章 安重根を哲学する[小倉紀蔵]
1 歴史への問いと安重根
2 安重根は韓国人だったのか
3 安重根は英雄だったのか
4 道徳的な人間が正しい歴史をつくるのか
第5章 龍谷大学保管の安重根の歴史資料とその平和利用[李洙任]
1 はじめに
2 ソフト・パワーとしての遺墨の効力
3 1990年代の日本社会とメディアの影響
4 政治利用される安重根のイメージ
5 安重根の遺墨と龍谷大学発の市民運動
6 龍谷大学内での賛同と反発
7 学術分野を超越した研究活動
8 遺墨を介しての研究者たちの交流
9 「国家安危労心焦思」――安重根の懸念
10 おわりに
第6章 国家に道徳性を求めるか、合理性を求めるか――安重根の「東洋平和論」に触発されて[奥野恒久]
1 はじめに
2 国家に道徳性を求めた安重根の「東洋平和論」
3 公私区分論に基づく憲法9条解釈をめぐって
4 国家に道徳性を求めてはならないのか
5 おわりに
第7章 日本における安重根への関心と評価――強権的帝国主義批判とその思想的継承[外村大]
1 歴史問題と日本近代史理解
2 日本帝国の執権勢力とその対抗勢力
3 強権的帝国主義の批判者
4 安重根への日本社会の視線
5 長谷川海太郎と「戯曲安重根」
6 戸叶武の安重根評価
7 強権的帝国主義批判の意義と課題
第8章 ハルビン事件と夏目漱石――『門』の内と外[田口律男]
1 はじめに
2 夏目漱石とハルビン事件――問題の所在
3 ハルビン事件をめぐる夏目漱石周辺の言説傾向
4 『門』のオブセッション――「残酷な運命」と植民地の影
5 暫定的なまとめ
第9章 安重根という想像力――1980年代以降の韓国の小説と映画を中心に[尹在敏]
1 はじめに
2 ナショナリズムの想像力Ⅰ――商業資本的ナショナリズム
3 ナショナリズムの想像力Ⅱ――「品性論的リアリズム」対「民族叙事詩」
4 安重根という想像力――思弁的想像力と輪廻的想像力
5 おわりに
第10章 安重根を歌う――安重根関連の韓国詩歌研究[朴秉勳]
1 はじめに
2 安重根関連の韓国の漢詩
3 安重根関連の韓国の歌辞
4 安重根関連の韓国の唱歌
5 おわりに
第11章 一つの事件、二つの視点――安重根義挙を素材とした中国近代小説の韓中先行研究に対する批判的検討[李定河]
1 はじめに
2 先行研究の比較検討
3 小説を解釈する韓中研究者の視線
4 おわりに
参考文献