
東アジアにおける憲法裁判制度と司法の変容
出版社: 法政大学出版局
- 韓国、台湾、インドネシア、モンゴルにおけるドイツ型憲法裁判所制度の特徴と機能、その伝統的司法との関係を分析した共同研究の成果
- 韓国、台湾、インドネシア、モンゴルを対象とし、憲法裁判所システムの特徴と機能、またそれが与える伝統的司法への影響を分析・比較検討した共同研究の成果。
- 近年東アジアでは、ドイツを範とする憲法裁判システムが注目されている。特に韓国、台湾では、民主化以降、憲法裁判を通じて人権保障が強化される一方、「政治の司法化」も指摘されるようになってきている。本書は、韓国、台湾にインドネシア、モンゴルも加えて、各地域の専門家が憲法裁判システム導入の背景と機能、それがもたらす司法の変容を論じた共同研究の成果である。
- 序章 東アジアにおける司法と憲法裁判 【國分典子】
I 問題の所在
II 本書の目的と対象地域の紹介
1 韓国
2 台湾
3 インドネシア
4 モンゴル
III 本書の構成
第1部 韓国における憲法裁判制度
第1章 歴史的背景からみた韓国の憲法裁判所の位置づけ 【國分典子】
はじめに
I 違憲審査制度の誕生
1 制憲憲法(1948年)以前の状況
2 1948年憲法制定過程における議論
3 兪鎭午の違憲審査権についての考え方
4 小括
II 第2共和国における憲法裁判所制度と政党条項の登場
1 憲法裁判所制度の採用
2 政党解散制度の導入
3 小括
III その後の変化と現行憲法における憲法裁判所
1 第2共和国憲法以降の状況
2 第6共和国憲法に至る議論
3 小括
IV 大法院の憲法裁判所法に対する意見
おわりに
第2章 韓国の憲法裁判所と大法院の緊張関係の行方──限定違憲決定と裁判訴願を中心に 【水島玲央】
はじめに
I 限定違憲決定の羈束力
1 韓国の憲法裁判所の限定違憲
2 法院が受け入れなかった限定違憲
(1) 旧所得税法23条4項但書(94憲バ40、95憲バ13(併合))
(2) 国家賠償法2条1項但書(93憲バ21)
(3) 旧相続税法18条1項の「相続人」の範囲(2003憲バ10)
(4) 公職選挙法93条1項等の「その他これと類似したもの」(2007憲マ1001、2010憲バ88、2010憲マ173・191(併合))
(5) 旧租税減免規制法附則23条(2009憲バ35・82(併合))
(6) 刑法129条1項の「公務員」の解釈(2011憲バ117)
3 小括
II 法院の決定に対する例外的な憲法訴願
1 憲法裁判所法68条1項と裁判訴願の可否
2 具体的な事例
(1) 旧所得税法限定違憲決定後の裁判訴願(96憲マ172、173(併合))
(2) 刑法129条1項の「公務員」に対する裁判訴願(2014憲マ760、763(併合))
(3) 旧租税減免規制法附則をめぐる裁判訴願(2013憲マ242ほか)
3 小括
おわりに
第3章 権限紛争をめぐる韓国の憲法裁判所と大法院の管轄重複問題 【牧野力也】
はじめに
I 韓国における権限紛争の司法上の解決手段
1 権限争議審判制度
2 機関訴訟
3 抗告訴訟
4 当事者訴訟
II 権限争議審判と行政訴訟の管轄重複問題の背景
1 権限争議審判と抗告訴訟の法的性格の類似性
2 権限争議審判と抗告訴訟の訴訟要件における近似性
(1) 当事者適格の解釈
(2) 「処分」の解釈
(3) 小括
III 権限争議審判と行政訴訟の管轄重複問題の行方
1 権限争議審判と行政訴訟の関係に対する学説状況
(1) 憲法裁判所の専属的・排他的管轄事項であるとする見解
(2) 憲法裁判所の原則的管轄事項であるとする見解
2 管轄重複問題の解決方法
(1) 管轄権の一元化
(2) 管轄権の「分掌」化
(3) 小括
おわりに
第4章 下級法院による韓国での「ボトムアップ型」積極司法という法現象──良心的兵役拒否の事例に着目して 【岡 克彦】
はじめに
I 良心的兵役拒否事件と下級法院による特異な司法現象
1 良心的兵役拒否の問題を取り巻く韓国の徴兵制と事件の現況
2 「ボトムアップ型」の司法現象に潜む問題性
II 事件の発端となった2002年の違憲法律審判への付託決定と 2004年の憲法裁判所の決定
1 ソウル南部地方法院による違憲法律審判への付託決定 2004年の憲法裁判所による合憲決定
III 入営忌避等罪に対する下級法院による初の無罪判決と2004年大法院による確定判決
1 「良心的兵役拒否」問題に対する従来の判例の立場
2 下級審における初の無罪判決と「良心の自由」の位置づけ
3 リーディングケースとなった2004年大法院の確定判決
IV 2004年大法院判決に抗する下級法院の無罪判決と違憲法律審判への付託決定
1 代替服務制度の導入をめぐる立法動向と大法院の確定判例に反発する下級法院
2 2011年8月の憲法裁判所決定の場合
V 反復する第一審の無罪判決による控訴審への波及効果
1 2016年の控訴審による無罪判決
2 2018年の控訴審による無罪判決
3 一審の有罪判決を覆した2018年の控訴審での無罪判決
VI 判例変更された2018年の憲法裁判所決定と大法院判決
1 代替服務制度の導入を立法府に命じた2018年の憲法裁判所決定
2 入営忌避等罪を無罪へと判例変更した2018年の大法院判決
VII 下級法院による「ボトムアップ型」積極司法という現象に潜む法的諸問題
1 司法組織内の判例形成でのヒエラルキーとボトムアップ型による特異な司法現象
2 大法院の判例に先例拘束性はあるのだろうか
3 上級法院の判断に抗する場合において下級法院・裁判官が負担するコストとリスク
(1) 無罪判決および付託決定の数での年度別推移からみた裁判官の負担
(2)015年以降の下級法院による無罪判決の急増の真意
4 第一審裁判の単独制と控訴審での合議制との対抗関係
5 大法院と憲法裁判所での各少数意見と第一審の司法判断相互の相乗関係
おわりに
第2部 台湾における憲法裁判制度
第5章 中華民国憲法草案の起草過程における憲法解釈権の所在の変化 【松井直之】
はじめに
I 大法官会議による憲法解釈と司法権の関係
1 司法院大法官会議規則
2 司法院大法官会議法
(1) 憲法訴願の追加
(2) 憲法訴願、抽象的規範統制の活用
3 司法院大法官審理案件法
(1) 抽象的規範統制の拡大と具体的規範統制の追加
(2) 憲法訴願、抽象的規範統制の更なる活用
4 小括
II 憲法解釈権の所在の変化
1 中華民国憲法草案の起草過程
2 国事法院による憲法解釈
3 国民大会による憲法解釈
(1) 憲法解釈は、立法院が意見を立案し、国民大会がこれを決定する
(2) 憲法解釈は、最高法院が意見を立案し、国民大会がこれを決定する
4 司法院による憲法解釈
(1) 第一次草案
(2) 第二次草案
(3) 第三次草案(五五憲草)
5 小括
おわりに
第6章 台湾における司法院大法官の憲法解釈の実践と省察──司法と政治 【李 建良/邦訳 望月暢子/監訳 蔡 秀卿】
はじめに
1 問題提起
2 問題の検討視角
I 政治環境と憲法解釈
1 党国体制下の党職と公職
2 権威主義体制下の立法と司法
3 民主化移行期下の国会と司法
4 民主憲政下の政争と司法
5 移行期正義下の政党と人権
II 政治問題と司法の自制
1 概説
2 重要事例
(1) 国家領土事件・1993年11月26日大法官釈字第328号解釈
(2) 国際条約事件・1993年12月24日大法官釈字第329号解釈
(3) 行政院院長総辞職事件・1995年10月13日大法官釈字第387号解釈
(4) 副総統・行政院院長兼任事件・1996年12月31日大法官釈字第419号解釈
(5) 憲法改正事件・2000年3月24日大法官釈字第499号解釈
(6) 監察委員任命同意権不行使事件・2007年8月15日大法官釈字第632号解釈
3 小括──受理義務か司法の美徳か
III 責任政治と憲法規範
1 概説
2 重要事例
(1) 予算項目変更・増減事件・1990年7月27日大法官釈字第264号解釈・1995年12月8日大法官釈字第391号解釈
(2) 予算執行停止事件・2001年1月15日大法官釈字第520号解釈
(3) 行政院院長総辞職事件・1995年10月13日大法官釈字第387号解釈・1996年12月31日大法官釈字第419号解釈
(4) 参謀総長答弁事件・1998年7月24日大法官釈字第461号解釈
(5) 国家通信放送委員会組織事件・2006年7月21日大法官釈字第613号解釈
3 小括──政治改革と憲法の枠組み
IV 立法政策と違憲審査
1 概説
2 重要事例〔訳注:立法政策形成事項が違憲とされた事例〕
(1) 外勤消防職員勤務形態事件・2019年11月29日大法官釈字第785号解釈
(2) 大麻栽培刑事処罰事件・2020年3月20日大法官釈字第790号解釈
(3) 姦通罪等事件・2020年5月29日大法官釈字第791号解釈
(4) 性犯罪者強制治療事件・2020年12月31日大法官第799号解釈
(5) 女性労働者夜間労働事件・2021年8月20日大法官釈字第807号解釈
3 小括──法の質の低劣か法の違憲か
おわりに──権力分立下の司法と政治
第7章 台湾における新しい憲法訴訟法の意義と課題 【蔡 秀卿】
はじめに
I 新しい憲法訴訟法の歴史的位置付け
1 違憲審査の性質
2 違憲審査の申立権者
3 違憲審査の対象
4 大法官(憲法法廷、憲法裁判所)と法院との関係
5 小括
II 新しい憲法訴訟法の施行状況
III 長年にわたる活発な憲法訴訟と積極的な違憲判断の継続の
原因分析
IV 法令合憲・確定判決違憲とした憲法法廷判決
1 国際親権事件・憲法法廷2022年5月27日2022年憲判字8号判決
2 不正投票罪事件・憲法法廷2023年7月28日2023年憲判字11号判決
3 公然侮辱罪事件・憲法法廷2024年4月26日2024年憲判字3号判決
4 公然侮辱罪・名誉毀損罪事件・憲法法廷2024年4月26日 2024年憲判字4号判決
5 小括──憲法法廷と法院との関係
おわりに──新しい憲法訴訟法の意義と課題
第3部 東アジアにおける憲法裁判制度の展開
第8章 インドネシアの憲法裁判所──民主化後における司法の独立と司法の政治化 【島田 弦】
はじめに──民主化の象徴から、民主化後退の象徴へ
I 司法権および憲法裁判所に関する先行研究
1 インドネシアにおける司法権
2 憲法裁判所と政治改革
II 憲法裁判所の歴史的背景
1 植民地支配および権威主義体制下の弱い司法権
(1) 独立以前
(2) 独立後
2 権威主義体制下の司法審査
(1) 法律上の規定
(2) 民主化運動と司法審査
3 体制移行と司法改革
(1) 憲法裁判所に関する憲法改正
III 憲法裁判所の権限および構成
1 憲法裁判所の権限
(1) 概要
(2) 法律の憲法適合性審査
(3) 機関訴訟
(4) 政党解散決定
(5) 選挙結果紛争
(6) 大統領罷免
2 憲法裁判所の構成
IV 憲法裁判所法改正の経緯
1 2011年改正法
(1) 改正の内容
(2)011年改正法に対する憲法裁判所の判決
2 2013年改正法
(1) 改正の内容
(2) 改正法に対する憲法裁判所の判決
3 2020年改正法
(1) 改正法の内容
(2) 改正法に対する憲法裁判所の判決
4 2020年改正以降の状況
おわりに
第9章 モンゴルの憲法裁判所──違憲審査制の変容過程と民主主義 【Dashbalbar Gangabaatar/邦訳 青木洋英】
はじめに
I 古代の法源と司法審査の登場
II ボグド・ハーン政権とモンゴルにおける民主的統治の基礎
III 民主主義思想の破壊と社会主義憲法下の司法及び検察
IV 立憲民主主義的精神(aspiration)の回復
V 外国における立憲的慣行の継受
VI 憲法制定過程における市民の参加(public participation)
VII 違憲審査制とモンゴル憲法ツェツ
VIII モンゴル憲法ツェツが「裁判所」であるかをめぐる議論
IX モンゴルにおける違憲審査制
X 立法府とモンゴル憲法ツェツの対話
XI ツェツの画期的な判断事例
1 手続上の不正を伴う違憲な憲法修正の審査
2 大統領候補者の資格に関する事例
3 比例代表制の憲法適合性に関する決定の判例変更
4 恣意的な拘留にかかる事例
おわりに
第10章 韓国・台湾における憲法裁判所──ドイツの視点から 【Fabian Duessel/邦訳 青木洋英】
はじめに
I 「ドイツモデル」と東アジア
1 憲法裁判の「ドイツモデル」
2 東アジアにおける受容
II ドイツモデルの選択的受容
1 地位
2 構成
(1) 任命過程
(2) 裁判官の経歴
3 管轄
(1) 具体的規範統制:通常の裁判所による付託
(2) 裁判所の判決に対する憲法訴願
おわりに
終章 東アジアにおける憲法裁判の機能と展望 【國分典子】
I 歴史的構造の問題
II 各憲法裁判機関と司法との関係性
III 憲法裁判機関が司法に与える影響
IV 憲法裁判の機能
